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2006年10月25日 (水)

グラフィティ

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「東京国際映画祭」今年はなかなか盛況のようです。かくいう私も「グラフィティ」見てまいりました。公式の紹介ページへは写真からどうぞ。

 ついこの間、画学生中心の「ハチクロ」見たばかりなので、この話の主人公も何だか伊勢谷氏演じる森田と重なり、それもまた楽しかったです。この人も卒業がアブナくて(笑)ネタを探しにスケッチ旅行に出るんですが、ど田舎で「文化の香りにあこがれる」町の実力者に見込まれ、壁画を描くことになります。注文は町の幹部たちの肖像を中に入れる事。ところが「死んだ身内も一緒に描いてくれ」という要望をひとり受けたら、あとからあとから次々に村人が現れ、だんだんタイヘンな事に(笑)なって行きます。
 主人公の画学生、この写真のイケメン兄さんは、モスクワの街でもストリートペインター?として体を張って(笑)街中の壁に描き散らしています。最初に出てくるこの場面は、実に強烈に雄弁に、彼の心の内を語っています。「俺は何がしたいんだろう」「俺はいったい何なんだろう」。彼自身にとっては鬱屈とした、しかし世界のどこにいる若者も抱く悩み。その彼がモスクワで描いていた壁画は、表現者たる彼の作品であり、彼の「絵」です。一方でこのど田舎で彼が頼まれた壁画は、同じ壁に描いたものであっても、彼にとっては「こんなものは絵じゃない」筈です。似せて描くだけですから。
 そういえば、この映画にはオダギリジョーが演ったらきっと面白いだろうなぁというような、個性的で切れ味鋭い、っていうかもう既にキレちゃった(笑)人がたくさん出てきます。ちょっとアキ・カウリマスキの笑いを髣髴とさせるような、トンデモ人間ばかり。でもとても愛着のわくいとおしい人ばかりです。それぞれが「俺はいったい何なんだろう」と模索し続けている、という点では若者です。

 で、私がこの映画をとてもとても気に入ったのは、「とにかく撮りきる」という監督の姿勢です。長い(笑)。長いんですよ~興行というイヤラしい視点で見れば、「ここでENDにすれば盛り上がるのに」「ここで終わりならキリがいい」というポイントが途中いくつもあるんですが、まだ先へ行く。ひょっとして途中ちょっとダラダラしちゃっても(^_^;)更に先を撮る。そして出てくる人たちのすべての物語を最後の最後まで撮りきる。彼らのそれぞれが「自分は何であるか」ではなく「自分には何ができるか」という問いをつかみ、それに向き合い、それぞれの「自分」から一歩足を踏み出す所までを、全部撮る。画学生が、自分の壁画に涙する人たちを見て心奮わせる、その様子がどんなにありきたりでもベタでも、それが画学生にとっての真実なら、映画としての効果構成はそっちのけで、撮る。汲み取りバキュームカーのデートも、ダチョウの憂鬱と逡巡も、どれもこれもネタとしてはひょっとしたら既視感満載のありふれたもの、かもしれなくても、衒う事も逃がす事もせず、撮り切る。全部、撮るんですよ。ひとつ残らず。そのおかげで、大笑いし涙を流しながら見ている観客の中で、小さなど田舎の村の半年は、「1800円で感動をもらう」といった類の商業的やり取りを乗り越え、確実な重さと厚みをもって「そこにあった」半年になる。自分の心の内に「自分とは何か」といった無意味な迷路を作り出し自虐的に「文化の香りを楽しむ」、救いようのない暗愚に陥った人たちから見れば、映画の中の「若者」と同じく「今、自分にできる事」を着実にやり遂げている監督は、監督として本当にまぶしく映ると思います。

 グルジア生まれのアルメニア人である監督のイーゴリ・アパシアンは、国際的にも評価の高いベテランであるそうですが、現在を模索中の若い監督ではなく、映画の何たるかを知り尽くした監督がこういう映画を撮る、ことに驚嘆します。これが日本で公開される日を、心待ちにしております。。。。終映後の記者会見の模様はこちら

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コメント

とても好みなタイプの映画でした!
アンドレイくんカッコよかったしー。
まとめての記事なんですがTBさせていただきました。
こういう作品に出逢えるからやっぱり映画祭はよいです。

投稿: かえる | 2006年10月31日 (火) 00時55分

アンドレイ氏かっこよかったですよね~v
私オーランド・ブルームも相当に好きなので(^^;)今回は大変嬉しかったです。
TBつけてくださっているよそ様の記事で知ったのですが、描かれた兵士も絵そのものも、全部実在のものなんだそうですね。
日本で公開されるといいな~

投稿: contessa | 2006年11月 1日 (水) 14時11分

はじめまして(いや、以前一度お伺いしたような気も…すみませんちょっとあいまいです)。TBありがとうございました。こちらからTB送らせていただいたとき、コメントさせていただこうかと思ったのですが、お留守っぽかったのでまたにしようと思っておりました。
contessaさんのおっしゃるように、この監督の突き進む、描ききる力というものは、なかなかない(特に日本では)んではないかと思いました。
見応えがありました。

投稿: わかば | 2006年11月 4日 (土) 19時56分

わかばさん、こんばんは
気を遣っていただいて本当に有難うございます。そしてお察しの通り、携帯から失礼致します・・・
>なかなかない(特に日本では)
そうですね。なんというか「力技で一本」(^_^;)みたいなところにほだされました・・・よく考えたら、目新しい事など何一つなかったんですけれど。

ブログも拝見しました。舞台挨拶ご覧になったんですね~美男子2人vvうらやましい限りです。帰りましたら、又改めてお邪魔させていただきますね。有難うございました。

投稿: contessa | 2006年11月 4日 (土) 21時57分

こんにちは お留守中にお邪魔します!
わかばさんのところから飛んでまいりました♪
私も映画祭で観たのですが、記事書くのをずっとサボっておりました(笑)沢山ある上映作品の中から偶然同じものを選んで観たご縁ということでお邪魔してみました(^^)v
¥1800出して青年と同じ貴重な経験をしたつもりになってます(笑)
あの壁画、見てみたいものですね~♪

投稿: マダムS | 2006年11月 5日 (日) 12時56分

こんばんは、コメント有難うございますvご覧になっていたのですか!

私は正直言いまして、写真の彼に魅かれて見に行ったようなものなのですが、内容を期待して見に行った他の映画よりずっとずっと見ごたえがあって、己の浅薄さを深く恥じましたです(^_^;)
かの地では有名な監督さんなんだそうですが、他の作品も是非見せて頂けたらと思いました・・・

投稿: contessa | 2006年11月 5日 (日) 19時37分

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●『グラフィティ』●  監督:イーゴリ・アパシャン 出演:アンドレイ・ノヴィコフ、ヴィクトル・ペレヴァーロフ、セルゲイ・ポタポフ他 ●『あらすじ@東京国際映画祭 公式サイト』●  ロシアの田園を背景に繰り広げられる3人の自由大好き人間たちの狂詩曲。 主人公であるモスクワ美術学校の学生は旅の途中、田舎町の実力者に見込まれて壁画を描くことになる。注文は町の幹部たちの肖像画だ。学生は町のよいどれ老人やバキュームカーの男と仲良くなりながら、... [続きを読む]

受信: 2006年10月30日 (月) 01時10分

» 東京国際映画祭で 『ガブラ』、『フォーギヴネス』、『グラフィティー』 など [かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY ]
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受信: 2006年10月31日 (火) 00時52分

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グラフィティー (2005) イーゴリ・アパシアン監督  第19回東京国際映画祭のコンペティション部門出品作。  グルジア出身のアルメニア人監督が描いたロシアの田舎のグラフィティー(落書き)。  第19回東京国際映画祭 オープニングは、夜のモスクワ。壁に落書きをしている青年が、それを取り締まろうとする一団に追われる、スリリングな逃走シーンから幕を開けます。  スピード感溢れる展開、アクション映画並みのカメラ。あれ?これって、こういう映画?と思ったら、それはオープニングだけ。  落書き常... [続きを読む]

受信: 2006年11月 3日 (金) 22時46分

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