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2006年10月12日 (木)

雨月物語

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 「溝口健二の映画」祭で、「雨月物語」見てきました。ポスターから、あらすじ含む詳細な作品解説に飛びます。

 昔の日本映画って、ガイジンには絶賛されるんですけど、今の日本人の目で見ると、正直あんまりピンと来ないものが多いと思います。やたら早口で何言ってるかわからないし、キンキン声で怒鳴りまくるし、芝居は大げさで見ているほうが恥ずかしくなるし。そうかと思うと、間の抜けた妙な「空白」があちこちに空けられたままだったり、音楽も感情表現もぶった切りでいきなり次の場面に切り替わったり・・・これは、日本映画の前身となった「新劇」「舞台芸術」がそのまま持ち込まれているからこういうことになっております。そして当時の観客は、そういうのは、歌舞伎や狂言と同じく「我慢してみるものだ」と躾けられていましたから(^_^;)だれも文句なんか言わなかったんですね。
 さらに、肝心の日本の伝統文化や時代考証の部分がどれもこれも突っ込みどころ満載です。食うや食わずの生活だったから?かもしれませんし、それを「新しい日本」と勘違いしていたのかもしれませんが、当時、お金が無くて新劇や映画に出ていた歌舞伎役者が一様に「情けない」といってまるで都落ちでもしたかのように泣いていた、その悲惨な現場がそのままスクリーンに残っています。実際もし今これを名前を伏せて公開したら、もうヒナンゴウゴウ間違いなし。私は、中ではこの「雨月物語」はまだ見るほうなんですが、それでも、あの近所の老人会の余興か、というようなヘタレな謡や、マジでうちの子供とさして変わらぬとってつけたような仕舞、貴人とされる女性陣の立ち居の雑駁さ、客人を案内し、歩きながらおもむろに小袖を脱ぎだす(!)仕え女、その正座の仕方、立ち上がり方、足裁き、袖口の裁き、裾の扱いは言うに及ばず・・・もう居酒屋のバイトのお姉さんでももう少し気を使っているゾと涙が出てきます。しかし、映画が「三流芸術」と呼ばれ、下に見られ資金もなくて素養も知識もない人たちしか来てくれない、そんな時代に一生懸命作ったんですから、まぁその意気込みだけでも買って下さい、というところでしょうか。

 私は個人的に溝口監督とはどうやら相性がいいらしく(^_^;)いくつかちゃんと最後まで見たものがあります。そして「舞台芸術」からは脱け出て映画独自の「リアリティ」を確立し始めているという点で、私はこの「雨月物語」は他の作品とは違う評価を受けていいと思います。カメラで撮るんですから、観客に聞こえるようすぐ隣の役者に向かっても「叫」ばなくていい。ふだん話すように落ち着いて小声で話してかまわない。逆に舞台の時にはどうせ見えないから適当でよかった顔や手先の表情にこそ、細心の演技を込めなくてはならない、痛くてもカットが入れば休めるんだから、必要とあらば骨が折れんばかりに突っ転んで大丈夫・・・そのあたりを役者も最初から心得ています(端役の人たちはあいかわらずトンデモナイですが)。演技の技巧もまだ模索中でほとんどはただイキオイだけ、いくらかは素のままですらあるんですけど、現在の「先輩の遺産」に絡めとられて身動き取れない大根役者たちに比べれば、よほどおおらかで生き生きとして自然に見えます。それを役者の力量として評価するかどうかは置いておいても(^_^;)見ていて気持ちはいいです。

 各国の超有名監督がこぞってミゾグチの影響を受けたと言っていますが、よく聞くと「日常を芸術の域にまで高める」技が目新しかった、というような事をまず最初にあげています。日本の常識は世界の非常識(笑)残念ながらそれは、監督独自のものではありません。のちに別の監督たちから同様の賛辞が今村昌平監督にも鈴木清順監督にも与えられていますが(笑)それはそもそも日本の伝統的な「芸の存在意義」、その延長線上に映画もあると考えれば、世界から見て非常識(笑)なのはある意味当然です。で、「影響を受けた」と名乗りを上げている監督の中で、本当に本来の溝口監督独自の部分をきちんと取り出して理解し、その影響を受けているのは、たぶん、アキ・カウリマスキだろうと思います。あの「面白うてやがて悲しき」かわいた笑いのセンスは、まさしく監督のものですし、力技で(笑)映画を推し進めるその歩みの力強さには、ミゾグチ監督作品と同じ清々しさを感じます。私はそれが今年「かもめ食堂」に見事に受け継がれていると思って、ひそかにとても嬉しかったんですけどね。いや、荻上直子監督がどう思っていらっしゃるかは知りません(笑)。



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