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2006年10月22日 (日)

Dear Pyongyang

Dpsub 「ディア ピョンヤン」見てきました。公式サイトへは写真からどうぞ。

 今年秀作続きのドキュメンタリーで、またひとつスゴい作品に出会ってしまいました。この写真の方、いかにもな笑顔を向けてくるごくふつーの「大阪のおっちゃん」(笑)ですが、実は恐れ多くも朝鮮総連の元大幹部さんで、これは何とそのお嬢さんが老いた父と母の日常をそのまま撮った映画なんです。こう書くと、只今ニュースの渦中にある国、朝鮮総連そのものもたいへん厳しい選択を迫られている昨今、さぞやご両親の生活からは在日の、あるいは北朝鮮の、政治的歴史的背景がイタイタしく浮き彫りにされるか・・・と思いますが。えー、断言します。そんなワザトラしいものは一切ありませんっっっ(大爆笑)。ひとたびおっちゃん、おばちゃんとなれば、やはりどこに住もうと誰といようと基本は同じ、その「わが道を行く」姿勢(笑)は、もう万国共通どこへ行ってもおんなじですvv しかし実はそれが、本当に、この映画の超弩級にスゴいとこ、なんです。

 このあいだ麻生外務大臣が、北朝鮮の核実験は失敗だと(大臣が)考える根拠は何ですか?と聞かれて、にこっと笑って「うーん、だってもし成功してたら、いつものあのおばさんがパーンと放送しそうなもんじゃない?」 場内大爆笑だったそうですが、いや、「おばさん」って、あの方は北朝鮮国営放送にたった2人しかいない、超エリートアナウンサーですからっ大臣っっ(笑) でもその場の「無意味な警戒感」「疑心暗鬼の闇」を払拭するのに「おばさん」の一言は強烈な効き目がありましたし、もちろん大臣はそのあたり折込済、なんでしょう。

 イデオロギーや独裁者という壁の隙間から中を覗いて見ると、北朝鮮は世界の流通貿易に乗せる駒を持たない「取り残された産業国」であり、近年不運な凶作に三度も見舞われた国であり、今は強大な政治力で押さえ込んでいるものの、いったん内乱でも勃発すればいつ難民認定されてもおかしくない貧窮のどん底にあえぐ国民を抱えた国、です。そこへ息子を送り込んだ父の気持ちは、遠くは満州にブラジルに息子を送り込んだ父親のそれと同じ筈ですし、近くは自分の信じた会社・銀行に裏切られだまされ慙愧の涙に明け暮れる父とまったく同じ涙です。父は、間違う。その永遠のテーゼが、一見どう扱ったらいいかわからないほど大きな舞台装置・独裁者国家北朝鮮と在日朝鮮人世界を背景に、いとも鮮やかに目の前に立ち上がります。そこにあるのはもはや記号と化したイデオロギーでも政治的偏向を糾弾される施政でもなく、ひたすらに生きていくべく放り込まれたのっぴきならない舞台。それは今、世界中の父親が立たされているのと寸分変わらぬ、生きる悲哀と悔恨をにじませた舞台なのです。

 ひょっとしたらこのアボジが苦しんでいた「悔悟」は、しなくてもいいものだったのかもしれません。それ以前にそもそも悩む事自体が間違っていたのかもしれません。悪の片棒を担いでおきながら今更何を言うかと、映画を見て鼻白む人もいるでしょう。しかし父は、間違うのです。間違うものなのです。それを真正面から辛辣に強烈に(^_^;)暴き出して尚、暖かいまなざしを向け続ける監督に、観客はひとつの答えを見出せる・・・かもしれません。

 拉致も核実験もまったく出てきませんが、人類普遍の「おっちゃん」の後姿を描いたドキュメンタリーとして、お父さん達には特に見てほしい映画、でした。渋谷シネ・ラセットで大好評ロングラン中、宜しければ是非どうぞ。

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