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2006年10月 4日 (水)

薬指の標本

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「薬指の標本」見てきました。公式サイトへは写真からどうぞ。

よかったですよ~ これは原作ファンの方にも是非見ていただきたい。私の知っている小川洋子作品って、「博士の愛した数式」ではなく、まさにこちら系統なんですよ。大変に硬質で静謐な世界、無駄のない緻密で真面目な文章の影から、まるで血のようにじわりとにじみ出て来る「異和感」。その、作者自らが静かに読者をそっと押し返してくるような、どこまで行っても決して縮まる事のない硬い距離感が、映画の中にも見事に掬い上げられています。小川さんと監督の対談を読んだのですが、監督も、東洋とか、女性作家とかいうことを越えたところにある、この不思議な距離に一番魅せられたようでした。

 映画には、原作にはない「普通の恋」も平行して描かれています。そのおかげで「標本技師」と「事務職員」の独特の交感が、より際立って感じられます。まるで性愛が先行しているかのような希薄な感情のゆれ。フランス映画だけあって、その体に繋がる描写が本当にただひたすら美しく描かれているので、余計に、彼らの心の置かれている場所が見えなくなっています。それがそのまま主人公の気持ちでもあり、物語を先へと進める力にもなっている・・・という原作の周到なからくりが映画にも生きています。そしてこの標本技師を、私は映画化するなら阿部定さんかなと思っていたのですが、ガイジンだったらアンソニー・ホプキンス・・・とそこまで考えて、それじゃ出てきた途端にネタバレじゃん(笑)と反省しました・・・映画では、この技師は、年恰好からも、たたずまいからも、表情からも、ほんとうに「読ませない」。それがストーカーなのか純愛なのか妄想の具現化なのか研究熱心なのか「アンソニー」なのか(笑)、映画見終わっても伏せられたまま、です。普通の人にも見えるし異常性愛者に変容するのかもしれないし・・・という異和感、緊張感は、最後の最後まで途切れない。手がかりは「標本」と「靴」。主人公が最後の一歩を踏み出したところで映画は終わります。

 原作の「鉱石」のような質感はそのままに、映画はそこに柔らかな光を当て、実に正しく豊かに広げて見せてくれています。私がハッとしたのは、原作で、和文タイプの活字を拾うところ。映画では雀牌セットになっていましたが、その拾う彼女の倦んだ様子が「捕らわれた」者の苦しさを全身であらわしていました。主人公の内的衝動がくっきりと描かれた数少ないシーンのひとつですが、ここから後、次々と提示される異常ともいえる展開が、おかげでまるであたりまえのことのように受け止められていきます。彼女は、もう、捕らわれているのですから・・・。

 ものすごく乱暴な言い方を許してもらえるなら、まるで矢野明子さんの音楽のような、この世の現実から見事に乖離したファンタジーです。その距離感を、最後までご堪能下さい。

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コメント

こんばんは。
原作未読のフランス映画好きの私はかなりこの雰囲気を気に入ったのですが、原作のイメージを損なっていないというのはまた興味深いですー。
ぜひ読んでみたくなりました。
麻雀パイは、小説では、和文タイプの活字なんですかー。??

今日はようやくパビリオンを観てきましたー。

投稿: かえる | 2006年10月11日 (水) 23時34分

かえるさん、コメントとTB有難うございますm(__)m

 フランス映画の中でもパトリス・ルコント系の、繊細で優美で「つきはなした」美しさでしたよね~日本人にはきっと好まれる・・・って原作日本人ですけど(笑)。
ルコントは、自分の作品が他でもない日本で喜ばれるのがとてもうれしいと(半分はお世辞だとしても)インタの度に言っていますから、感性に似たとこがあるのかもしれません。

聞くのがコワい気もしますが(笑)「パビリオン山椒魚」のレビューも楽しみにお待ちしております。

投稿: contessa | 2006年10月12日 (木) 09時36分

おはようございます、contessaさま。
私もこの作品観ました。
>作の「鉱石」のような質感はそのままに、映画はそこに柔らかな光を当て、実に正しく豊かに広げて見せてくれています

この「鉱石のような質感」とてもいい単語を使われるのですね。
そして、麻雀パイを拾う姿が捕らわれた者の姿、というのも共感しました。
私もこの作品、原作の方も記事を書きましたので、合わせてTBさせてくださいまし。

投稿: とらねこ | 2006年10月14日 (土) 05時55分

とらねこさま

TBとコメント有難うございました。
「46億年の恋」に引き続き、とらねこさんのお好きな世界なんじゃないかと、実はひそかにレビューを期待しておりました。
今から拝見させて頂きます~わくわくv

投稿: contessa | 2006年10月14日 (土) 07時37分

contessaさま★本の方のTB、失敗していたのですね。
本の方もTBさせてくださいましね。

投稿: とらねこ | 2006年10月17日 (火) 22時41分

とらねこさま

ココログってTB送るのも受けるのも
本当に相性がいろいろあるらしいのですよ。
ご迷惑をおかけして本当にすみません。ご丁寧に有難うございました。

投稿: contessa | 2006年10月18日 (水) 21時06分

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受信: 2006年10月11日 (水) 23時31分

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受信: 2006年10月14日 (土) 05時55分

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