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2006年9月22日 (金)

シュガー&スパイス 風味絶佳

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What are little girls made of?
What are little girls made of?
Sugar and spice
And all that’s nice,
That’s what little girls are made of. 
by 『Rhymes』

 「シュガー&スパイス 風味絶佳」見てきました。公式サイトは写真からどうぞ.
 最近のレンアイモノには本っ当に珍しい事に、何も!起きません。不治の病も、自殺も、事故も、よみがえりも(笑)なんにもない。事件すら起きない。それでも私は見ている間中、涙が流れて止まりませんでした。そうして映画の力ってこういうものだと改めて思いました。映画好きな人にこそ、お勧めします。

 原作も私は大好きです。山田詠美さんは私が「小説家だ」と思った最後の作家さんなんですが、彼女の作品の中でもかなり好きな方です。山田さんは何が凄いって、行間を「正しく読み取らせる術」に長けているところが凄いんです。一番伝えたい事は言葉として掬い取らない。言葉を生業とするからこそ言葉を過信しない。しかし伝えたい「部分」は丁寧に、寸分の狂いもなく、「ここなの」と、示す。その中は自分で覗いて見てね、と言わんばかりに。

 私がこの映画で一番感心したのは、ストーリーやディテールだけでなく、まさにその「山田式描法」を映画が見事に踏襲していた事です。そして考えてみれば、言葉を使わず何かをそこに「存在させる」事は、映画が一番得意とする事だったわけですが、山田式と同じく、この映画も、描きたい部分を、その「周り」を、丁寧に丁寧に描き出して「そこ」を立ち上げていました。そしてそれがほんとうに丁寧で、だから泣けてくるのです。
 実際の人生で、誰かに恋をしたり、それがもつれたり、ふられたり、離れ離れになったりした時、それに目を向けるのがつらくて、あるいは励ましてくれる友人の言に従い、まるで漫画やゲームや歌の歌詞のように、意図的に「次へ」と気持ちを向けていこうとすることがあります。次へ、次へ。さくさく、さくさく。ところがそれを繰り返しているうちに、いつしか恋愛なんて、結局タダくっついてタダ離れる、それだけのことにしか思えなくなってくる。タダの恋はありきたり。つまらない。もっともっと予測もつかない、ドラマみたいな劇的な事が起きてくれたら。そしたらきっと面白いのに・・・
 でも本当は、タダの恋愛はつまらないものではない。好き、とキスの間には、すぐ手が届きそうでも泣きたくなるほどたくさんの気持ちが詰め込まれているんだし、相手が何を想っているか、なんて途方にくれるほどわからないものだし。そしてどんなに泣きたいと思っても涙はすぐには出てこないし、脚が攣るほど自転車こいでも、絶対車には追いつけないし・・・柳楽君の、沢尻さんの、様々に色を変える「途方にくれた瞳」が、どれほどその「本当」をえぐりだしていたか。そしてこんなにもふつーの、どこにでも転がっているような恋愛に、いったいどれほどの想いが通い合っていたことか。自ら遠くへ押しやっていた、封印していた想いの一つ一つが、映画の中でほんとうにゆっくりと丁寧にときほぐされていきます。そしてまるでそれがこの世にたった一つしかないもの「であるかのように」、大切に、丁寧に、深く掘り下げられ、美しく広げられていき、思わず涙があふれてくるのです。

 その重さと長さを、そのまま人の心の流れに寄り添うように丁寧に忠実に掬い上げていくという作業は、小説にだけ赦されてきた贅沢です。ページをめくれば次の展開が迫ってくるようなカンタンな「小話」に慣れたヒトタチには、全く何の面白みもないだろうと思います。しかしそれこそが時に「風味絶佳」。生きる醍醐味。それは誰よりも何よりも、夏木マリさんに捧げられた言葉なんだと、私も思いました。

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