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2006年8月29日 (火)

照柿

406275245x01_scmzzzzzzz_v60183209_「照柿」(上)(下) 高村 薫

# 文庫: 382ページ
# 出版社: 講談社 (2006/8/12)
# ASIN: 406275245X

左の写真からどうぞ。


 
 只今夏休みの宿題が最後の追い込みで(笑)子にPCを取られるので、横で本を読んでます。で、出てすぐ買った待望の文庫をようやく読み終わりました。

 高村さんは、今までに出した単行本を今少しずつ少しずつ文庫にしています。どうしてゆっくりかというと、その度ごとに大幅な加筆訂正大改正が入るから、です。ファンはそれをよく知っているので、単行本を暗記するほど読んでる人ほど(笑)まるで新刊を待ち焦がれるような気持ちで文庫化を待っているのです。

 で、今回改めてネットを巡ってみて、実はこの「照柿」が高村作品の中では一番人気がない(!)事を知りました。がーーーん・・・だって2,3年前には、ちゃんとテレビドラマにもなってたのに~カッコよかったのに・・・「暗い」「重い」「救いがない」「暑苦しい」・・・確かにその通りなんですが(泣)。

 「暑苦しい」は本当にその通りです。今年のような夏に読むにはうってつけ、読んでいる限りクーラーつけても全然涼しくなりませんという(笑)、真夏の東京郊外の工場地帯が舞台です。そして重くて暗くて救いがないのは(笑)、主人公合田の「徒労」と「挫折」がこの話の主題だからです。いわば「負の部分」だけで成立している話ですが、そこでは合田が作者が都合よく動かす駒、ではなくむしろ「人間」になっていて、そのどうにもならなさ、重たさ、やりきれなさに、いやおうなく引きずり込まれます。たぶん、この前後の作品を書くために、一度合田という人を徹底的に書き尽くす必要があって生まれた作品だと思うのですが、そして私は、このシリーズでは実は合田の義兄加納氏のファンなのですが(笑)、この話で合田という人物が確かな存在感をもって頭の中に立ち上がり、作者の筆力を堪能しました。

 そして今回の文庫化に当たって、本文は本当に削除削除の嵐となってました。組長ファンにとってはアノせりふがないのは「許せない!」かもしれません・・・いや、ほんとに(^_^;)。でも私は読了して、高村さんが最初これを書いた時、あれもこれもと逡巡しながら書き込んでいた一つ一つの事柄に、今はそれぞれ答えが出たのだと思いましたし、その結果としてのこの「削除」だと思いました。男しか出てこない話の中で、合田が出会う一人一人の男との関係を通して「合田」を描くのではなく、「この人と会っている時のこの合田を描く」というスタンス、つまり高村さんの中でそれだけ焦点がはっきり定まった結果が、貫かれていると思います。萌えという名の可能性(笑)は俄然低くなったかもしれませんが、作品としての成熟度、精緻さは数段上がったんではないでしょうか。

 私がこの作品で一番好きなのは、実は合田と加納が夏の夜更けの縁側で語らうシーンではなく(笑)、達夫という主人公が女の絵を描くシーンです。そこに限らず絵に関する描写は、高村さんはもう自家薬籠中のもの、といった感じがしますが、ここは特に、絵の中に表れているはずの2人の心の交流が、見事に言葉で浮き彫りにされ、そのまま「絵ではないもの」にまでなっていて、読んでいて胸が熱くなります。そして展開上、話の引導を渡す事にもなるこの大事な場面を、ここまではかなくも気高い「絵」に託すところに、高村さんの、この作品への熱を感じます・・・それが同時に合田の恋を粉砕し尽くす刃となるように。

 今読めば、ものすっごい臨場感が味わえると思います(笑)。よろしければ是非、秋風の立つ前に。

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コメント

「照柿」の文庫本を思わず買ってしまいました。痛いほど暑い西日は実感ですよ。

投稿: Yuko | 2006年9月 1日 (金) 00時40分

およそエンタメとはかけ離れた本ですが(^_^;)お楽しみ頂けたらと思います。
今年読んで思ったのですが、暑さと不眠は立派に殺害動機になりえますね。でないと自分が抹殺されそうです・・・

投稿: contessa | 2006年9月 1日 (金) 10時35分

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