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2006年8月12日 (土)

旅芸人の記録

019

「BOW30  映画祭」の、私的最後の〆は、やはりこの作品でした。写真クリックすると映画祭公式ページに飛べますが、そこにも書かれている通り、意外にもこの作品が日本でのBOW映画人気の嚆矢だったのです。そして作品に優劣をつけることはもとより到底出来ませんが、それでもこれを越える映画はもう作られる事は無いだろうと、それだけは言えると思います。「旅芸人の記録」です。

 日本で言うと大河ドラマかNHK特集のように、ある旅芸人一族のたどった道をギリシャ激動の時代と絡めて静かに語った作品です。限りなくドキュメンタリーに近く思われますが、監督はこの重厚長大な歴史と人のかかわりを前にして尚それに呑みこまれることなく、一段高いところからしっかりとすべてを俯瞰し、慈愛に溢れた眼差しを細部にわたって向け続け、神の様に透徹した目と哲学をもって映像を組み上げて、映画と言うひとつの「作品」に仕立て上げました。人の一生を題材として人類普遍の真理を解き明かすという物語の形式は古来数多くありますが、それは、作家の手を通して、その実人生をその人と共に一生歩む以上のものを昇華した形で得られる事に意義があるのであり、この映画もそれと同じで、記録が記録に終わらず、経験と記憶として人の心に残る事の意味を、最後のひとつまで見事に掬い上げ取り出して魅せてくれます。なんという、映画、なんでしょうか。

 この、テオ・アンゲロプロスという人が持つ、胆力と知性を兼ね備えた鋭敏な感性と、強力な生命力が作り上げた骨太で厳格な哲学は、もう大地を離れて久しい現代人には到底望むべくもありません。私たちがこれから撮っていくのはもっと別の映画であるはずです。ただ、この映画やそれに類するものが運んでくれていた「時を愉しむ」ひとときというものが、これからは贅沢なものとなるのかもしれないと思うと、それが少し寂しい気がします。一日つぶしてマーラーの交響曲聴きとおす、とか、四鏡を飛ばさず読み通すとか、「時」を愉しむよすがとなるものは世に数多あると思いますが、映画こそ、その使命を果たすのにふさわしいのだと教えてくれたのが、この監督だったのでした。







 


 

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