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2006年8月 4日 (金)

あこがれ美しく燃え

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当日急用で見られなくなりまして(^_^;)正確にはここのカテゴリに入れてはいけないと思うんですが、この映画は逆に今まで映画館でしか見たことがなかったので、見逃した悔しさのあまりDVDを買いました~ とてもとても好きな映画ですvv


 美しく力強い映画です。話の前半1/3は、いわゆる教師と生徒の性愛を美しく描いていますが、そこから先が、他の映画にない力を持っています。人間の一生のうち、女性の少女時代に、人類を救う力を見出す人は多いと思いますが、私はこの映画を見るたびに、私達を乗り越えてつき進んでいく人たちの力強さと正しさに救われる思いがします。つまり、そういう映画なんです。

 この美しい瞳で物事をまっすぐに見据える少年のまわりは、ダメな大人だらけです。それもそのはず舞台は1943年スウェーデン最南端の港町、これから始まる嵐のような2年間とそれに続く悪夢の日々を知ってか知らずか、大人はなすすべもなく運命の前に首うなだれ、あるいは自棄になり、あるいは刹那の人生を謳歌するだけの日々。少年の真摯な瞳はむなしくも無視され素通りされてしまうのです。14才の少年にまともに大人とわたりあえるだけの力が在るとしたら、それは彼の中でたった一つだけ成熟を遂げている器官を使う事にしかないと、私も思います。彼は(それを意図したものではないにせよ)そうやって女教師の瞳をこちらに向け、愛欲の世界の気高さと淫猥を同時に経験し、さらにこの奇妙な力関係によって女教師の夫からも、人生の気高さと悲哀を切々と示されます。皮肉にも、このある意味人生に背を向けた夫婦によって授けられた「人生」は、少年が自分の力で勝ち取ったものであるがゆえに、実に正しくまっすぐに彼の心を沃していきます・・・そして最後には、周りの大人が彼に掛ける言葉がまるで自己弁護にしか聞こえなくなるほど、彼の心と精神が力強く一歩高みへと踏み出しているのが見て取れるのです。

 私が個人的に好きなシーンは、女教師と少年のやりとり。愛情がそのまま何のためらいもなく性につながっていくところが本当に美しい。日本の義理と人情に縛られた「高校教師」や「いとしのエリー」に比べて、いっそすがすがしく崇高な感じがします。
 あと、彼女の夫が少年に音楽の翼を授けるシーン。女教師は「主人は帰ってくるとキッチンでいつでも決まってベートーベンをかけるからすぐわかる」と言っていたのに、実際帰ってきた彼がターンテーブルに針を落とすと「マタイ受難曲」が流れてくる(笑)ので、彼にはよき理解者がいないのがよくわかるんですが、ついでに今まで音楽についてあまり語り合ったことがないらしく、自分の興味の赴くままに、少年にいきなり難解な大曲ばかり次々に聴かせます(笑)いや、いい曲だし名曲だしある時期のクラシック音楽の完成形、ともいえる大曲ですが、でもやっぱり家でいきなりベートーベンの「大フーガ」が延々と流れ出したら、少年の親御さんでなくても辟易すると思いますね(^_^;)  
 そして私が見る度に涙するシーン。夫はある日、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」を少年に聴かせながら、ナチスの非業を思い、そのまさしくドイツ語で語られる演説を思いながら、当時の世界中の人々と同じ涙を流すのです。あれはドイツではない、これがかのドイツ・リートを育んだドイツ語と同じ言葉である筈がない、と。そこに妄想にも似た望みを寄せてしまうからこそ悲劇は尽きないのだとわかっていても、私も今同じ曲を聴いて同じことを思い同じ涙を流すので、ダメな大人である事に変わりはありません。音楽が世界を救う事はあっても、世界を救うのは音楽ではない・・・その場になすすべもなく泣き崩れる夫の背中を優しく抱きながら、少年もうっすらとその事に気づいたかもしれません。


 

 この、何のためらいもなくカメラの前に自分をさらけ出す少年は、実はこの監督の実の息子さんです。そのまっすぐな瞳をカメラのこちらでしっかり受け止める監督がいたからこその、美しさなのだと今は改めて思います。そして残念ながらこれがこの監督の遺作となりましたが、少年は俳優となり「太陽の誘い」「ゴシップ」などの秀作でいずれも難役をつとめあげています。

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