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2006年7月22日 (土)

エル・スール

063

この映画祭の中では、2日間がビクトル・エリセに当てられていて、8回あるうちの6回が「ミツバチのささやき」、2回がこの「エル・スール」ですから、皆さんに待たれていたのはミツバチ、の方なんでしょうか。どちらの作品もDVDは既に絶版、オークション価格は15000円前後、レンタルなし、劇場公開なし、という、これを逃すと正直次いつ見られるかという稀品ですから、客席は前回にもましてタイヘンでしたよ。この写真クリックすると公式に書いてありますが、実は今回の映画祭に際して、シャンテ側はニュープリントを用意しようとしていたらしいです。結局公開日には間に合わなかったのですが、作っているなら新しいDVDも出る、でしょうか。期待していますvv

 そして私は寡作なエリセ監督作品の中で、これが一番好きです。本当に、映像が美しい。何度見ても、一つ一つのカットに、文字通り見惚れてしまいます。非常に精緻で繊細に作り込まれた画の数々。しかもそれが流れるような躍動感と息遣いに満ちていて、映画でなければ撮れない美しさとはこういうものかと、ただただため息です。その「まるでフェルメールの絵が動き出したかのような」とよく言われる静かなたたずまいに、ひっそりと寄り添うように、お話は少しずつ少しずつ、深く沈められていきます。少女の成長と共に、まるでパラフィン紙が一つ一つはがされていくように、家族の思いが、父の思いが、父の秘密が、明らかになっていきます。そしてそんなにも微細な動きでありながら、うねりは確かに誰にも止められず、死は偶然でも厭世でもなく、必然となり自然となって、目の前にはらりと落ちてくるのです。叙情という景色の裏に隠されていた生命の重さと厳粛が、ひたひたと自分の身の内に満ちてくるのがわかります。そしてそれさえもが美しい。この映画を見ている時、自分の心に浮かんで来るものをどうあらわしていいか未だにわかりませんが、確かに「それ」が映画と呼応して、映画の世界を創り出しているんです。そしてそれを私の内に映し出しているのも,まぎれもなく監督。2本同時上映。そんな映画を私は他に知りません。

父と娘の心の交流の細やかさがこの映画の核となるところですが、いつのまにか以前より一歩引いた所から眺めている自分がいて、その端正な美しさに見とれながら、その事を少しだけさびしくも感じたのでした。


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