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2006年3月 8日 (水)

シリアナ

syriana
シリアナ、見てきましたvv

公式サイトはこちら



前評判で「難しい」「わからない」という声が高く、キネマ旬報の評価もエラく低かったのでとてもシンパイしながら見に行った映画。確かに誰にでも薦められるものではありませんが、でも物凄く物凄く見ごたえがあって面白かったです。年齢的には湾岸戦争がテレビに映ったのを覚えている人、あと、そこからこっち、年に1回ぐらいは中東関係の記事を目にしてきた人・・・なら全然大丈夫です。私のようにオイルといえばガソリンスタンドにしか行った事のない(笑)専業主婦が普通に知りえる範囲の知識でも堪能できます。登場人物がそれぞれある特定の利権団体や組織のシンボルとして登場している分、とても話が整理されわかりやすくなっているのです。字で読んだら頭痛くなるような難しい敵対関係も、人間をキーとして見るのですんなり頭に入ってきますし、さらにそこに携わる人々の内面もじっくりと追求され、人間ドラマとして見ても胸打たれるシーンがいくつもあります。ただし娯楽映画ではないです。NHK特集見たら3分で眠くなる人にはお薦めできません。同じ群像劇の「クラッシュ」は、カット割りや編集の仕方が図抜けて秀逸で子供にもわかるようになっていますが、この映画はさすがに中高生にもわかるようには出来ていません(笑)。でもあれだけの内容を良くここまで纏めた、とそちらのほうを素直に評価すべきだと思います。

 合併工作の裏で戦う弁護士と検事。アメリカは司法取引が盛んですから、不正の事実を検事側に握られている担当弁護士は、トカゲの尻尾きりで逃げようと検事と談判します。ところがシッポがあんまり小さいと意味がないとはねられます。そこで。この弁護士は自分の上司を本人同席の場で目の前の相手にスケープゴートとして「差し出す」んです。事務所はつぶれますが合併は成功、弁護士も安泰・・・日本でもありそうな話じゃないですか。

 あるいは対立する2人の王子。兄は国を憂い、弟は兄を出し抜くことばかり考えている。正義感に燃え、秘めた怒りを静かに表す兄の哀しい瞳を前にすると、石油不足を煽り石油に群がるダークスーツのハイエナ達が本当に卑しい卑屈な人間に見えてきます。そして米国の傀儡政権の頂点にむしろ自ら座ろうとする弟も。

 この兄王子が目指すのは、現在投機の対象でしかない石油を公開市場で経済原理の管理下におき市場も自国で管理し(今は米英にしか市場がない)、この架空の国を経済的政治的に自立した国家とする、というものです。石油の需要と供給のバランスが取れた安定した生産性=安定した政治国家がそこに実現し、世界を牛耳られてしまうのは、アメリカにとっては戦略的にも過去の行きがかり上も(笑)絶対に許せない事・・・王子様は決して世界を石油で支配しようなんて思っていないんですけれどね。それでも今や誰も止められないアメリカの(笑)被害妄想はとどまるところを知りません・・・アメリカが後ろ盾をする弟に王位を奪われた王子様、最後にはありえないほど大掛かりな手段で爆殺、です。あの美しい王子様がっっっっ(涙)   

 このあたり、「シリアナ」という名はアラブ石油地帯の一部を漠然とさす言葉ではあっても、そこに渦巻く怨念と(笑)権謀術数は日々のニュースと直結しています。むしろステロタイプに整理されることで、リアル世界のあのニュースの意味が逆にわかってくる・・・そんな感じです。

 それから王子様とは別の視点で、自分の生活の延長として真摯に国を憂うイスラムの人々。私はアラビア語とペルシャ語が「違う」という事すら知らなかった大馬鹿者ですが(泣)、このパキスタンから流れてきた日雇い青年(とその父)の話にはとてもとても感じさせられるものがありました。アメリカはじめ他国の人々には、欲得の絡んだ利権の話は何とかわかっても、彼らの心がこちらに向ける、その刃の意味がわからない。イスラムの教えが彼らの心にともす火、その宗教指導者たちの説話。ここが丁寧に描かれているおかげで、見ている私たちにも、「シリアナ」とはまったく無縁の他国の一介のイスラム教徒が「特攻兵」となるまでの過程が、その心の暗部が手に取るようにわかります。映画が「机上の空論」ではなくなり、ニュースには出てこないけれども実際今この時も生きている青年達の「現実」に結びつきます。
 そしてこの、パキスタンの青年を勧誘しやさしく教え諭し死へといざなう(!)教導師が、これがまた本当にため息が出るほど美しい人。画面に出てくるだけで空気が一変し、悪魔のようにそれと気づかせぬまま人を魅了して離しません・・・青年でなくても、私でも、きっと付いていっただろうと思えるほどに(いりませんっ・笑)。


本人達はどう思っているのか知りませんが、9.11以降、CIAもFBIも「お間抜けな集団」なまま失地回復できずにいることは間違いありません。この映画も、そのお間抜けなCIA工作員が狂言回しとして語ってくれているので、その点でもわかりやすいし面白いです。「中東は知らぬ存ぜぬ」で寂しい思いをする前に、解説者の話を鵜呑みにしていつの間にかわけがわからなくなる前に、明日からのニュースの見方をちょっとだけ変えるためにも、一度見に行かれることをお薦めします。

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『シリアナ』公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/syriana/原題:SYRIANA製作:2005年アメリカ監督:スティーブン・ギャガン出演:ジョージ・クルーニー/マット・デイモン/ジェフリー・ライト/クリス・クーパー/ウィリアム・ハート/アレクサンダー・シディグ 《公開...... [続きを読む]

受信: 2006年3月25日 (土) 09時26分

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