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2006年2月 2日 (木)

ホテル・ルワンダ

rewanda公式サイトはこちら
この映画が日本で公開されるようになった経緯についてはこちら
そしてこの後彼らが何をしたか、現在まで続く「コンゴ内戦」についてはこちら からどうぞ。



 

この映画を見て初めて、10年前にこんな大虐殺が起こっていた事を知った若い人たちにとっては、これは「あってはならない事」でしょう。しかし同時代を生きた人たちにとっては、「起こってしまった」忘れることの出来ない事件です。決して映画のキャッチコピーにあるように、世界は彼らを見捨てた、のではない。それどころか、世界は今もその行く末を禿鷹のように見守り続けています。上に挙げた3つ目のサイトを御覧いただければわかるように、旧ザイールは、植民地時代から続く長い抗争と複雑な「利権」の絡み合う、「常に掻き起こされるべき火種」です。目を離すはずがありません。そしてこの年、南アフリカではやっと「人種差別政策をとらない」という決定が下されたばかり。「遠い夜明け」という映画にに描かれた世界はまだ現実で、同じアフリカには、ルワンダ以外にもいくつも悲惨な紛争がまきおこっていました。全世界の、利権などとはおよそ縁のない「善良な部外者」だけが、忸怩たる思いでそれを見ていました。特に、植民地支配に明け暮れた国家の末裔達は、自分達の蒔いた種の成長した姿を、むしろ茫然と眺めるよりほかなかったのです。「何故人は人を差別するのか」といった机上の自問自答、そのループすらがむなしく消し飛んでしまうほどに。

 いわゆる「先進国」と呼ばれる国の人々の中には、この映画を見てひどく自虐の念に取り付かれる人もいるかと思います。映画の中に出てくる「白人」「外国人」は皆、一様に哀しい瞳に無力感をいっぱいに湛えてアフリカを去っていく。自分達の蒔いた種でアフリカの民が殺しあうのです。寝覚めのいいはずがありません。覇権主義、大国主義、自由貿易、利権の吸収と荒廃・・・これだけ見てたら、まるで体のいい泥棒です。
しかし。
彼らが世界に振りまいて来たのは、たとえば富と権力という圧倒的な「数字」だけなのでしょうか。欧米各国の存在価値は本当に、アフリカの地に降り立った「コンピューター付ブルドーザ」でしかないのでしょうか。

私がこの映画でとても感動したのは、この半年後殺戮者へと変貌する難民達の命でもなければ、規定に反して銃をぶっぱなす国連軍でもありません。命にかえて忠実にhospitalityを遂行する、現地採用のマネージャー(主人公)です。この実在の人物は「アフリカのシンドラー」と呼ばれているそうですが、シンドラーと大きく違うのは、彼を突き動かしたのが職務ではなく、職務を支える「精神」だということ。それは世界のどこへ行っても、ホテルマンと呼ばれる人ならどんな人でも、皆一様に持っている誇り高い精神です。いまさら、もう一本の「ホテル」の映画の話はしたくもありませんが、日本のホテルマン達だって、夜中に玄関の屋根に「何かが」「上から」「飛び降りて」来たら、ある人は警察を呼び、ある人はホースとデッキブラシを持ち、そしてある人は「袋と割り箸を持って」現場に集まるのです。そして朝になれば何食わぬ顔で「いってらっしゃいませ」と微笑み、営業担当は商談相手の前で淡々と割り箸を使って塩辛を食べるのです。それが「今やるべき事」obligationだからです。この主人公も、世界のホテルマンと同じように、危機に際して、機知と話術とあらゆる手練手管を使って目的を遂行します。その張り裂けんばかりの胸の内も、映画では突き刺さるようにこちらに伝わってきますが、一方で、その毅然とした態度には、人間の尊厳の核となるものすら垣間見えます。

 では、それを彼に教えたのは。彼がその「精神」に触れたのは。
 それは、それをここにもたらした「文化」があったから。するべきことのためにはひたすらに自分を律する、高邁な精神が、そこにあったから。彼が見事Hospitality と Obligationを習得したから。だから彼は、「するべきことをなしたまで」と美しい白い歯を見せて微笑む事が出来る・・・たとえ今も夜毎に悪夢にうなされていようとも。
 欧米とひと括りにされるかの国の人たちは、本当は、コンピューター付ブルドーザーの代わりに、こんな素敵なものを持っているのです。それがあれば、本当は、彼らの頭を悩ますアラブの民や武士道の民とも誇り高く心を通わせあうことが出来るのです。本当は、その怯えきった手を銃から引き剥がすのに苦労しなくていい。量や破壊力も競わなくていいんです。それがあれば。金や権力や武器でなく、彼ら自身が自らを誇りに思える「精神」があれば。
 富を求めて今や世界中をさまよい歩く孤独な彼らの魂が、かつて彼ら自身の持っていた精神性の高さによって、いつか救われることを願ってやみません。・・・この、主人公のように。


そして、やはり最後にどうしても言いたい。
「恋に落ちたシェークスピア」というコメディ映画と、「リチャードを探して」というアル・バチーノが撮った映画は、同時期に同じシェークスピアを題材にとった物ですが、はっきりと前者に軍配があがりました。アル・パチーノが大好きな私が見てもそう思います。コメディというものの持つ力、人に訴える力の大きさは、しっかりと作っていれば他の映画の比ではないからです。笑ってもらうためには、シリアスに状況を描くより何倍も準備が必要だし、わずかな瑕疵も許されないし、何より、笑う対象に対する、作る側の深い深い尊敬の念、がないと笑いは起きないからです。今回の「ホテル」に関しては、三谷氏は遣り残した事がたくさんあったと思います。何千回ホテルに泊まっても、見えない人には何も見えない。そんな事なら是非この映画を観て欲しいと、私は切に願います。






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コメント

コメント、ありがとうございました。
本作では本当にいろいろなことを考えさせられました。
人としてどう生きるべきかを突き付けられたような気がします。

投稿: honu | 2006年3月 2日 (木) 06時55分

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当初、日本では公開予定がなかったのに・・・ 署名運動で公開にこぎつけた・・・って話の映画だよね。 主演もドン・チードルだし・・・ 実話らしいし・・・ チネチッタのポイント貯まってるし・・・ 観てみる事に。 [続きを読む]

受信: 2006年2月 3日 (金) 03時20分

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受信: 2006年3月19日 (日) 12時40分

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1994年、アフリカのルワンダで民族対立が原因の大量虐殺事件が発生、欧米諸国や国連の無策が被害を拡大させる中、1200人もの人々をホテルに匿い、持ち前の機転と交渉力でその命を守り抜いた一人のホテルマンの奇跡の逸話を映画化。主演は「青いドレスの女」「オーシャンズ11」のドン・チードル。監督は「父の祈りを」の脚本で知られるテリー・ジョージ。日本では長らく公開のメドが立たずにいた本作は、有志による熱心な署名活動が実を結び晴れて公開実現の運びとなったことでも話題に。  1994年、ルワンダの首都キガリ。多... [続きを読む]

受信: 2007年8月 4日 (土) 08時48分

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